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時計旋盤の選び方

時計旋盤の基礎的知識とその選び方

ここでは、時計旋盤の基本的な知識と、選ぶ上でのポイントについて書かせていただきます。

まずは世界中で今も数多く流通し、使われ続けている時計旋盤の規格について、2種類のベッドをベースに記述しております。その後に選択要素として下記項目に沿って説明させていただきます。

1. ジェノバベッド旋盤とアメリカンベッド旋盤

まずベッド形状に基づく、2つの規格について説明させていただきます。
ベッド形状に関しましては、さらに古い物ですとタイトルにある規格以外にも、様々な規格(例:ひし形ベッド)があるのですが、そこまで古い物は購入対象にするべきではないと考えますので、ここでは除外させていただいております。
ベッドの違いによる規格についての説明をしていく中で、旋盤その物の話題にも触れていくことになりますので、そのおつもりでお読みいただけますと幸いです。

下側画像にある棒状のベッドを採用している物が、いわゆるジェノバベッド旋盤です。

ジェノバベッド旋盤
ジェノバベッド旋盤

1859年に発明され、主に、6㎜、6.5㎜、7㎜、8㎜などのチャックを使用し、ベッド下部で1本の足により固定されています。ベッド直径は通常20㎜です。
軸受はコーンベアリング構造とされ、小型で高精度であったことから、様々なメーカーによりほぼ同一の仕様で多く製造されました。
ベッド上に固定する各アタッチメントがスイングしてしまわないように、ベッドの一面がフラットにされています。

ジェノバベッド

G.BOLEYがトップフラット(上面がフラット)、LORCH、WOLF JAHN、BOLEY-LEINE、STAR等がバックフラット(向こう側がフラット)のベッドを採用しておりました。STARがスイス製、それ以外はすべてドイツ製です。
ベッド上面から、ヘッドスピンドル(主軸)の中心までの距離を芯高と言いますが、G.BOLEYが45㎜、バックフラットの場合には40㎜となっています。
この芯高の違いは、どの面がフラットにされているかによる違いだけで、基本的には同じ造りがなされておりました。つまり、ベッドの中心から測れば、どちらも50㎜になる計算です。
また後年に製造を始めた、ドイツANDRA製のジェノバベッド旋盤は、強度を上げる為に、25㎜ベッドを採用し、他の20㎜ベッドの製品や、アメリカンベッド勢に対抗しておりました。芯高は45㎜で、平メタルベアリング仕様です。

その後、1889年頃にAMERICAN WATCH TOOL CO(ウォルサムの工作機械製造部門)によって作られた、いわゆるWW規格(ブランド名のWEBSTER-WHITCOMBのイニシャルに由来)の旋盤が、下側のアメリカンベッド仕様です。

アメリカンベッド旋盤
アメリカンベッド旋盤

ベッド中央が中抜き構造とされ、上面のフラットな部分の幅は、37㎜ほどであり、各アタッチメントを固定する為の証となるのは、上面とその外側のベベル(斜角)部分です。
例外的に、MARSHALL(ブランド名:PEERLESS・MOSELEY)の製品は、上面と内側のベベルを証として使用しています(MARSHALLにはさらに例外的な製品もありますが、ここでは割愛させていただきます)。
通常はヘッドストック下の1本足で固定致しますが、ロングサイズのベッドの場合は左右2本の足により固定されています。
芯高は基本的には50㎜です。
例外的に、MARSHALLのモデルは、芯高が主に2インチ(50.8㎜)で造られていました。ただし、製造数は少ないですが、WW規格通りの50㎜の物も一部製造された時期がありましたし、また歴史的な資料では確認が取れておりませんが、当方では51㎜強芯高の物も何度か入手した経験があります。そうしたことがあったからでしょうか、このメーカーの旋盤には、各アタッチメントにシリアルナンバーがふられており、芯高の確認に役立つようになっています。

アメリカンベッド

このアメリカンベッド仕様の時計旋盤は、それほど大型ではないにもかかわらず、頑丈で、高速にも耐え、非常に高精度であったことから、高い評価が与えられました。
その仕様に習って、アメリカのメーカーのみならず、ヨーロッパのメーカーまでもが製造競争に参加することとなり、数多くアメリカに向けて輸出がなされました。
アメリカの業界人達が、G.BOLEYはアメリカのモノマネをして大儲けしたと揶揄をしていたとの話さえ残っています。

製造が始められた当初は、多くのメーカーがWW規格にならい、主に8㎜チャック(チャックのボディ寸法の直径を指しています)を採用しておりました。
後には、10㎜、12㎜などのさらに大きいサイズのチャックを使用する旋盤も作られていくことになります。
また、この規格の発展形として、ボールベアリング旋盤も製造されましたが、そのことに関しましてはこちらの記事をご覧ください。

ここで簡単にWW規格旋盤の基本的なファクターをまとめさせていただきます。

  1. いわゆるアメリカンベッドをベースとし、芯高が50㎜であること。
  2. 8㎜チャック(いわゆるロングチャックではない、スタンダードチャック)を使用しており、ネジピッチが0.275-40(ネジ外径6.985㎜、ピッチ0.635㎜)であること。
  3. チャックのキャパシティー(内径をワークがスルー出来る最大サイズ)が5.0㎜であること。

上記の3点が一応の定義の様になっていますが、厳密に捉えるか、ゆるく捉えるかでその範囲が多少違ってきます。

  1. PEERLESSの2インチ(50.8㎜)芯高の物はWW規格に含まれるのか?
  2. ネジピッチが、0.625㎜と言われているG.BOLEY やLORCHは含まれるのか?
  3. 公称ではなく実際のチャックキャパシティーが、約4.7㎜ほどであるメーカーはいくつもありますが、これらは含まれるのか?

といった意味合いのことです。
私は、これらの差異は問題にするような要素ではないと考えますので、全て含めて考えた方がむしろ分かり易いであろうと感じています。従いまして私の説明では、上記の物も8㎜WW旋盤に含めて述べさせていただきます。

さて具体的なベッド選択に関しまして、ここで明言させていただきますが、どちらのモデルにされるかは、お好みによる選択で基本的には問題はありません。
時計旋盤と言えば、小型なジェノバベッドしか頭に浮かばないという方もいらっしゃるようですし、また後で述べますが、木製ケースに入れられたセット物に惹かれ、このジェノバベッドにこだわりを持たれる方もいられます。
逆に、アメリカンベッドのいかにも高剛性な造りに信頼感を覚えるという方も多いですし、作業内容の発展性を鑑み、追加アタッチメントのことを考慮してこちらを選ばれる方もいられます。
それでは、各要素に従って具体的に比較してみたいと思います。

A.ベッド強度

これに関しては詳細な説明は不要かもしれませんが、明確にアメリカンベッドに軍配が上がります。

各アッタッチメントは当然ベッド上に固定されている訳ですので、作業時に少しでも高剛性のベッドに支えてもらいたいという願いは、機械の性格上当然の事であろうと思います。

実のところ、ベッド自体の強度にも差はあるのですが、ジェノバベッドに強度不足を感じさせてしまう要因は、むしろベッド自体ではなく、ペデスタール(足)の構造にあると考えます。上の画像を見ていただくとよく分かるのですが、ペデスタールは2ピース構造になっておりまして、ヘッドストック下部のベロ状の部分を下からコの字型の部品で挟んでおりまして、そのパーツ(この画像では塗装タイプになっています)がその下に位置する受け台に挿し入れられて固定されております。
そのベロ状部分の強度が足りないのか、コの字型部分でネジを使用して押さえていることに起因するのか、棒状の物が受け台に挿し入れられている構造に問題があるのか、はたまたそれらすべてが合わさった結果であるのか明確なところは分かりませんが、この台は、大き目のワークの切削をする為に手バイトで強く押しますと、ベッドと一緒に向こう側にわずかに逃げる傾向を示します。
これをお読みいただいている方の中には、現在この旋盤をお使いの方もいられると思いますので、そんなことはないと否定される方も当然いられることでしょう。
しかし、私は下記のような実験をしてその逃げの存在を確認しております。
ペデスタールの向こう側に、斜めに強度のあるつっかえ棒を設置して筋交いとし、しばらく旋盤を使用してみました。その結果、あくまでも体感ではありますが、逃げの分量は半分ほどに減少しました。
勿論、コーンベアリングにはその構造から、強く押した時に逃げが発生しますので、そのことを一緒にして語っているつもりはありません。
そうしたことがあり、私はペデスタールが欠品している場合には、無理に探すことはせずに、程度な強度を持つ背の低いバイスをご用意して提供することにしております。その方が良い結果に結び付いていると実感しております。
また逆にアメリカンベッドの場合で、このコーンベアリングの逃げを感じ取って嫌う方が、その原因が1本足にあると考え、2本足で支えられているロングベッドをご所望になられるというケースがあります。
長いワークを日常的に切削する私には2本足のロングベッドは必需品ですが、まったく差がないとは申しませんが、入手の難しさに比してその効果はあまりないのではというのが私の実感です。

また、例えば将来的に歯切りをしたいといったご希望がある場合などでは、作業時にかかる応力自体はそれほど大きなものではないのですが、通常の切削作業とは違うベクトルの力がクロススライド上に位置する縦長形状のミリングアタッチメントにかかりますので、各アタッチメントが多少大型になることもあって強度が期待できる、アメリカンベッドが選択されております。

また実際問題として、ジェノバベッド用のミリングアタッチメントの入手を考えた場合、ごく一部のジェノバベッド旋盤には歯切りの為のミリングアタッチメントが用意されてはいましたが、あまり売れることがなかったという実情がありますので、まず見かけること自体がありません。私自身でも、ジェノバベッド用はこれまで入手出来たことがありません。

BOLEY-LEINEN製REFORM

少々本題からそれますが、特殊なベッドとして、両者の中間的で存在であるBOLEY-LEINEN製のREFORM(改革といった意味合いであろうと思います)ブランドの物もあります。

一見、太目のジェノバベッドの様に見えまずが、アメリカンベッドのような中抜き構造になっていて、サイズ的にも強度的にも、また使い勝手の面からも、中間的な良いとこ取りを狙ったのであろうことが推察出来ます。ベッド直径は30㎜、芯高50㎜です。
中抜きでありながら、細目であることから、私は個人的にこれをナローベッドと呼んでおります。
面白い造りですが、当然アタッチメントに汎用性がない物がありますので、様々な物を組み合わせた本格的なセットをお求めになられるのであれば、問題なくご使用いただけると思います。

B.アライメント

旋盤の重要な要素である、ヘッドストックとテイルストックのアライメント(一直線となる同心性)に関しましては、アタッチメント側でベッドを包み込む造りから、アガキがほとんどないジェノバベッドに、より大きい恒常性があります。
つまり、特別な意識を持たずにただ単に固定をしても、いつも同じ位置関係に収まってくれます。
ただし一致していない場合には、その場しのぎの小手先の方法で修正する事は困難になります。修正方法としては、上面がフラットなG.BOLEYを例にすれば、高さの狂いは、どちらかを低く加工する事である程度修正が可能なのですが、左右の狂いがある場合は、構造上修正は至難の業ということになります。

それに比較して、アメリカンベッドの場合は、多少アガキがありますので、使う上でひと手間かけたほうが良い場合があります。テイルストックなどをどちらかに押しながら、固定レバーを操作するといったようなことです。
勿論、意識せずに普通に固定するだけで、全く問題なく一致する個体もありますので、必ず必要な手順ではないのですが、構造から言って可能性があるということです。
高さに明確な差がある場合は、一部が他社製で構成されている可能性があります。
また、中古品ということで同じメーカーの物であっても組合せが正しくないこともあり(同じ規格であっても、わずかな差がある場合があります)、そのような時は同じメーカーの物の中から選びぬいて交換する必要があります。
当然公表などはされておりませんが、メーカーには製造上の様々な事情があり、同一メーカーであっても年代により規格が微妙に変更になっていたといったことはよくあることですので、年代差といったものが原因で一致してくれない場合もあるのです。
また、たとえ出荷時の元々の正しい組み合わせであっても、数ミクロンから十ミクロン程度の高低差があることはむしろ普通ですので、修正をすることで良い結果に結び付くといったことは比較的よくあることです。
メーカーが新品商品の出荷時に、組み立てた旋盤を一台ずつアライメントの一致を確認して、誤差を修正していたとは思えませんので、オリジナル状態であってもミクロンレベルで合っていると期待する事には多少無理があります。

G.BOLEYジェノバ用クロススライド

C.アタッチメントの使い勝手

ジェノバベッドでは、ツールポストをクロススライドに交換する時などには、通常はテイルストックを一度外す必要があり、その点を嫌う方がいられます。
例外的に、G.BOLEYの場合では、画像のような造りになっていますので、横から押し入れることも可能です。

アメリカンベッドの場合、同様のケースではベッド下の大き目の手回しナットを緩めることで交換が可能ですので、より簡単に交換が出来ます。

D.ヘッドストックの軸受間の距離

旋盤の選択についてのご相談のために、ショールームにお越しになられる方に、私が一番強調してお伝えしているのが、この軸受間の距離についてです。
元々小型な旋盤であるということから、ヘッドストックの2つの軸受の距離は当然短く、その結果としてエンドプレイが多少大き目にでるという宿命があります。
テイルストック(芯押し台)を使用してワークの端面を固定できれば良いのですが、極小ワークの切削を行うことが多い時計旋盤では使用しないケースがほとんどであると思いますので、エンドプレイの問題はとても重要なものとなってくるのです(端面側の固定ができない訳ではないのですが、話のポイントがずれますのでこの点に関しましてはまた別な機会に書かせていただきます)。

例えば、G.BOLEYで比較した場合で、アメリカンベッドのヘッドストックの方が、ジェノバの物よりもこの距離が11㎜ほど長いのです。僅かな差と思われるかもしれませんが、エンドプレイもできる限り小さくしたいと、常に力を尽くしている私にとってはとても大きな差に思えます。
言い訳に聞こえてしまうことを承知の上で書かせていただきますが、コレットがワークを実際に掴んでいる部分の長さがあまりにも短いですので、これをゼロにすることは出来ないことは分かり切ってはいるのですが、そうしたファクターを前提としつつも、ヘッドストックのスピンドル方向の長さは、できるのであれば長い方を選択していただいた方が良い結果に結び付くことになります。

2. 軸受(ベアリング)構造

コーンベアリング

この点に関しましてはトップページに記載しましたので、そちらをご覧ください。

ベアリング構造について

3. チャックサイズ

コレットチャック
WW規格の製品を扱っている当方といたしましては、販売するチャックも当然WWの物になります。つまり8㎜チャックということになります。(画像上から6㎜、WW8㎜、8㎜ロングチャック)

6㎜旋盤は、私の場合は扱うつもりが今は一切ありません。
私が8㎜チャックにこだわるのは、やはり何と言ってもバランスが良いからです。
極端な例を思い浮かべていただくと分かり易いと思いますが、チャックが大きくなっていった場合、また逆に小さ過ぎる場合も、製造精度の維持が難しくなっていくことは想像に難くない事と思います。

しかし小さくなっていく場合に、製造精度以外にもむしろ着目すべきは、実使用をしていく上での、弾性強度の維持を含めて精度維持が難しくなるファクターがより大きくなっていくという点なのです。つまり比較した場合に、6㎜チャックでは、チャック内径部に付いた傷やそこに埋め込まれてしまった見えないほどの粒子状の異物、また3つに分割されたヘッド部分の変形などが、精度を狂わせる要素として、8㎜チャックに比べてより大きな影響を与えてしまうことになると判断致しております。
錆落とし加工の為に無理な力で押さえつける、あるいは落下させたりなどして、分割されているチャックヘッドの一片が、目では簡単には認識できないほどわずかに中に入り込んでいるといった状態が、チャックの精度を狂わせる一番の要因なのです。
ドローバーで引き込まれた時に、その結果としてスピンドルの顎部分がチャックヘッド全周を均一な力で締め付けることは、精度の為に何よりも重要なことなのです。
バランスがいいというのはそういった意味です。

また、中古市場で調達することを前提とした場合に、6㎜チャックのネジピッチが、8㎜チャックほどは集約されておらず、同じ規格でセットを組むことに難しさがあるという点もあげておく必要があると思います。
加えて、何と言っても中古市場で流通しているチャックの大半が8㎜のスタンダードチャックで占められているという現実的な要素もあります。
注意していただきたい点として、スタンダードチャックは35㎜ほどの全長ですが、5㎜ほど長いロングチャックという物が存在しますので、ご自身で入手される場合にはお気を付けください。
同様に、8㎜チャックであり、スタンダードの長さではあっても、ネジ部の外径も8㎜弱になっている、いわゆるLARGE規格の物もありますのでぜひご留意ください。当然WW旋盤には装着ができません。

ebayなどでは、そうした事実をひたすら隠して出品している売り手が多いことは周知の事実であるとは思いますが。

私が販売する中古のコレットチャックに関して

私が販売する中古のコレットチャックに関して書かせていただきますと、可能な範囲での精度修正は施しておりますが、完全なものではありません。
旋盤の精度はできる限り新品に近い状態で提供させていただくことが私の仕事ですが、コレットチャックに関しましては、その精度を保証した上で販売するとなりますと、どうしても中古品とは言えない価格になってしまいますことをご理解ください。

他方で、中国新品商品は論外でありますが、アメリカで販売されている比較的お安めの新品商品の場合におきましても、焼が入っていないような商品をお求めになられても、元々の精度を含めて、これはこれで後悔の元となってしまいますので、くれぐれもお気を付けください。
国内で入手できる新品商品の場合も、時計を扱う方であればどなたもご存じのブランドですので、具体的な名前を上げることは控えますが、精度的に大きな問題を含んでいます。
どちらの場合も、セット購入を初めからなされずに、事前にサンプル程度をお試しになられることを強くお勧めいたします。私がここでわざわざ言及している意味がお分かりいただけると思います。
ただし、中古チャックにアレルギーのある方もいられるでしょうから、コストと精度のバランスをよくご検証いただければと思います。

またチャックサイズ(番手)の汎用性に関しての話題ですが、世界で流通している中古コレットチャックセットの多くが偶数番手中心であることにお気づきの方は多いかと思います。これはほとんどのインボックスタイプの旋盤セットに在中していたチャックが、発売時に全て偶数番手で構成されていたことと無関係ではないと思います。
つまり、旋盤メーカーの多くがチャック製造を自社では行ってこなかったことの結果であって、50番あたりまでの全ての番手を入れた上でセット販売した場合には、売値に占める仕入金額が大きくなり過ぎてしまうことから、それを嫌った為だと推察いたしております。

しかしながら、コレットチャックの精度範囲は、各サイズの±0.05mmまでであることは、チャックメーカーが明言しているところです。例えば、0.7㎜のワークを8番のチャックで掴んでいては、精度の話などどこかに飛んで行ってしまうということなのです。
私の場合は、コレットチャックはできる限り番手の揃ったセットを、初めからお求めになられることをいつもお勧めしております。
イニシャルで投下していただくご予算の中で、他のアタッチメントを検討される前に、充実したチャックセットを旋盤の次にくる優先項目にされるべきであるとの思いを常々持っております。
あとあと単品で買い足していくことを続けるのは、結局高くつくことになりますし、そのこと自体が困難です。そもそも奇数番手のみで構成されているセットといった物はまず存在しませんので、その点からも奇数番手の入手が難しい事であることは推察いただけるかと思います。

また、チャックのボディ寸法、ネジ部の外径とピッチなど、寸法そのものに関しましての知識はとても重要なのですが、長くなりますし、選択の話題から外れてしまいますので、機会をみてブログにでも記載していきたいと考えております。チャック装着の可否に関わってくる大切な要素です。

4. メーカーによる回転精度の差

同じコーンベアリングどうしでの比較であり、2つのベアリング間にプーリーが配された一般的な構造のヘッドストックどうしでの比較であることを前提とした場合、皆さんがご存じのメーカーの物であれば、メーカー間での精度に差はないと言ってしまって差支えないと思います。
一般に流通している中古品の場合、実使用上の精度の良し悪しは、旋盤のそれまでの使われ方と整備状況、チャックのメーカーと使用履歴による状態の差によるところが大きいと思います。
少なくとも、私がレストアしたヘッドは、メーカーによる差はまずありません。

また、ハウジング側軸受の硬度を重要視する向きもあるのですが、硬度が高ければ高いほど良いといった単純なことではないというのが、整備を進める上での私の基本的なスタンスです。
確かに高硬度の物の方が、その時点でその個体の持っている精度を維持するスパンが長くなるということはありますが、そのことが高精度の回転にそのままつながる訳ではないという事は疑いのないところです。

ただし、あまりにマイナーなメーカーの旋盤はやはり避けるべきです。
中国製新品旋盤は論外ですが、NOSや状態の良い個体であったとしても、マイナーな欧米メーカーの製品はお勧めできません。材質の問題や、その製造工程に疑問を抱かせる品質である場合が多く、博打を打つことに意味を感じられず、私自身は、ある時期からは定評あるメーカーしか扱わなくなりました。
それは、メーカーを集約させた方が、品物の供給体制を整えやすいことから仕事の効率が上がるといった側面も勿論あるのですが、結局はお客様に喜んでいただけることにつながりますし、それに加えてコレット直近位置での回転精度が良いという絶対条件以外にも、実はそれに加えられるべき種々の重要な性能があり、トータルに高い評価を与えることの出来るメーカーが自然に定まってきたというのが実際のところです。

もしも、しっかりとした製品を供給していたのであれば、マイナーな存在で終わる可能性自体が低かったのではないかと捉えてもおります。

当方では主に、下記の5社の物の中から選んでご提案させていただいております。
また別な意味合いですが、実際の作業時に、手にフィードバックされる感触といったファジーな印象が、使われる方の満足感に影響を与えているということがあり、そうした純粋にハードの問題だけでは片づけられない要素も意外に重要であるとの感触を得ております。
そうした要素に関しては、実機を前に実際に触れていただいた上で最終的な決定をしていただくことも大切なことであろうと考えています。

私が一番多く扱うのは、LEVIN、G.BOLEY、MARSHALL[(PEERLESS)、ANDRA、BOLEY-LEINENの5社の製品です。それに加えて稀にWEBSTER-WHITCOMB、LORCH、WOLF-JAHNといったところでしょうか。
こうしたメーカー選びに関しましては、それぞれのお客様が現時点で何を求められているのか、また最終的に何をなさりたいのかといった要素と当然重要な結びつきがありますので、じっくりとご希望をお聞かせいただき、お勧めできる機種、アタッチメント内容を、それぞれのご予算に応じてご提案させていただいております。

別な話にはなりますが、コピー旋盤といった物も意外と多いですので、注意が必要です。画像だけではメーカーの真贋や、アタッチメントの不揃いなどの詳細な判断がつかないことがありますので、ご注意ください。
そもそもebayなどでは、売り手の勝手な思い込みで、メーカー名などの説明を根拠なく作文してしまっているケースなどは比較的多く見られるところです。

また、このことをここに記載すべきがかなり迷いましたが、新品商品を比較的安く購入出来ることから、VECTOR製をお求めになられる方が少数とはいえ後を絶たない現状を鑑み、ここで少し述べさせていただきます。
この旋盤はドイツ製というふれこみですが、実のところこれは中国で製造されています。
ドイツの企業が企画、生産管理に参加しているケースなどですと、品質に多少期待が持てることもあるのですが、おそらく木製の台などの外装の仕上げをドイツで行っていることでドイツ製としているだけだと思いますので、肝心な旋盤本体の製造はシンプルに中国です。
作りがしっかりとした物であれば、中国製であっても問題にするつもりはないのですが、目に余るところを感じています。

ドイツ製として販売することが違法にはならないように、しっかりと手続きがなされた上の事だと思いますので、ドイツ製と呼ぶこと自体に疑義を呈しているわけではありません。
勿論、そうした点をご存じの上でお求めになられたのであれば問題はないのですが、今まで私がお話しを聞かせていただいた中では、ご存じの方はいられませんでしたので、ここに書かせていただくことに致しました。
皆さんの回りにもこれを入手された方が、探せば見つかると思ますので、ご購入を検討されている方は是非そうした方の評価をご確認ください。
ebayをご覧になられる方は、中国製のジェノバベッド(ベッド直径22㎜)新品旋盤がとても安く売られているのをご存じだと思います。両者は同じ製品です。その価格差には驚きを禁じ得ません。

チャックネジがWW規格ではなく、中国製時計旋盤のアイデンティティとも言えるM7×0.75㎜が採用されています。本来なら容易に察する事ができるはずなのにと、どうしても思ってしまいます。

5. 旋盤単体とインボックスセットタイプ

G.BOLEY-FM旋盤

時計旋盤の購入にあたり、後々アタッチメントの追加購入の必要が出来るだけ少なく済む物にしたいと、インボックスのセット物を選んでおこうと考えられるのはごく自然なことだと思います。

そこで候補として、LORCH、G.BOLEY、WOLF-JAHNなどから出されていた、ジェノバベッド仕様のセット物を検討される方が多くなってくるわけです。

部品の様な小さなアタッチメントがたくさん入っていますので、おそらくおおいに役だってくれるに違いないとお考えになられるのも当然のことだとも思います。
しかし、実際にG.BOLEYのFMセットなどを所有されている方に、そうしたアタッチメントの用途をご存じかどうかお尋ねしてみますと、ほとんどの方は知らないので使用したことがないとお答えになられます。

セイフティプーリー使用例

セイフティープーリーは、使い方が分からない最たる物だと思いますし、ドライバープレート(キャリーチャック、あるいはまたケレーチャックとも呼ばれますが、これはキャリーを日本でローマ字的に受け取って使われ始めた呼び方です)、細かなオスメスの受け駒類、またドライバ(回し金)が入っていることも多いです。
これらは主にスイス方式(両センター方式)で天真を作成する時に使用する物ですので、多くの方が途中でワークを掴み直して天真を作成する日本の技術者の方にはあまり意味のない物のように思います。勿論、キャリーチャックとドライバで、それ以外の用途でも使用することはありますが、購入する上でのプライオリティーが本当に高い物なのでしょうか?
そうした在中品の中で役立つ物としては、入れホゾ時に使用するオートセンタリングドリリングプレートセットがあります。

しかし、これを使わなければ入れホゾが出来ないとお考えになられている方が実際どれだけいられるのか、私は疑問に思っておりますし、使ったことがないと言われる方のほうが多いようにさえ思います。
このセットは、アタッチメントが技術をカバーしてくれるという点において、私自身ではとても好ましく思っておりますので、一定の評価はしているつもりです。
また、私がセット物の旋盤にケチをつけているとお感じになられる方がおられましたら、先にお詫びをさせていただきます。

オートセンタリングドリリングプレート

私がお伝えしたいのは、イメージで購入品を決められることだけは避けてくださいということなのです。決してお安い物ではありませんので、よくお調べになられて、優先度の高い物から、しっかりとした目的意識をもって入手をお決めください。
その為に私を利用いただいても勿論結構です。しっかりとお付き合いをさせていただく覚悟はありますので、さらなる詳細な説明もさせていただきます。
こうしたインボックスセットは、昔から人気があり比較的販売がし易いこともあり、私の仕事の内容からして押さえておかなければならない商品ですので、私も出来るだけ在庫を切らさないように普段から心掛けております。こだわりを持たれている方には、勿論喜んで販売させていただきます。ただ、これまでここに記載してきました様々な要素を鑑み、私が初めにお勧めする旋盤にはなっていないことは事実であります。

G.BOLEY--F1

しかし、同じ様なインボックスセットであっても、G.BOLEY  F1(WW規格・世界で垂涎の的となっている旋盤です)に付属しているアタッチメントの場合は、意味合いがだいぶ違うものになっています。

前期タイプのセットを例にいたしますと、在中品として、ステップチャックセット、リングチャックセット、海外でも探されている方の多いビックチャック(ポット状の大き目のチャック・6㎜~14㎜)、ローズカッター(ショルダーカッター)18サイズ、テイルストック用の精度の高いドローバー型式のドリルホルダー10サイズ、三爪チャック等々が在中しております。
勿論、FMと同様にオートセンタリングドリリングプレートセット(軸径が太くされて強度が上がっています)、フェイスプレート、オスメスの受け駒、ドライブプレート等も入ってはおります。しかし、やはり私が目を引かれるのは、使用頻度が高く、しかも精度の高い造りがされている、一言で表現すれば実用的なアタッチメントの方であり、そうした物を中心に構成がなされているからこその価値であると考えております。

もしセット物を選択肢に入れられるのであれば、こうしたF1や、ANDRA、BOLEY-LEINEN REFORMなどのように、両センター方式の旋盤として使用する為の物以外が多く在中しているセットをお選びになられることをお勧めします。
当然高額になってしまいますので、安易にお勧めすることはできませんが、やはり購入されるだけの価値があると思っています。

繰り返しになりますが、しっかりと製品の方向性・意味合いを検証された上でお決めいただくことが大切であると考えます。
もし、ご予算の事があり、そのような高額なセットには手が出せないということでしたら、むしろセット物ではなく、単体旋盤をお求めになられて、残ったご予算はコレットチャックセットを出来る限り充実させる為にお使いいただくよう、私は常々お勧めいたしております。

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事業所名 Okey-Dokey(オキドキ)
電話番号 044-954-7776
営業時間 10:00〜18:00/不定休
ショールーム 14:00〜18:00(要予約)
所在地 神奈川県川崎市多摩区
事業内容 機械式時計用工具輸入販売/主に時計旋盤の整備・レストア

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