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ボールベアリング仕様の時計旋盤アタッチメントにつきまして

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前回書かせていただきましたように、この2、3年ほどはボールベアリングを使用したアタッチメントにかかわることが多く、例によって商売を横に置いて、研究者のような時間を多く過ごしておりました。
そもそものきっかけは、以前に一度ここに書かせていただいた、ドイツから仕入れたフラットメタル仕様のミリングアタッチメントの改善作業にありました。
スピンドル軸受けに耐久性を持たせる必要があることが分かり、しかもそのことで精度を落とすわけにはいかないのは当然のことであり、両方の命題を合わせて達成するために自ら始めてしまった苦労話になります(笑)。

例えば、BOLEY LEINEN社で販売していたミリングアタッチメントはフラットメタル(平メタル)軸受け仕様でした。
ハウジング側の受け部は、おそらくベリ銅製であろうと推察をいたしますが、それでも摩耗をしますとその後の直径サイズの調節機能はありませんので、そこで寿命を迎えてしまうことになります。
スピンドルとのすきまが大きくなりますと、当然精度維持は難しくなりますし、ハウジング受けの中でスピンドルが極端に言えば斜めになってしまうことで回転抵抗が大きくなり、まともには回転しなくなってしまいます。

一方G.BOLEY社の場合では、両サイドともにコーンベアリングの物と、片側がコーンで反対側がフラットメタルといった造りの物と、両方が製造されていました。
これはメーカーの考え方の違いで、回転軸のエンドプレイを嫌う歯切りには、構造が単純でエンドプレイの出にくいフラットメタルが良いと判断するか、あるいは長い寿命が期待できるコーンを採用するのかといったことです。

これは、カッターが左右に振れることは許容できないが、ラジアル方向に軸全体が動くことはある程度は許容できるという考え方(摩耗すれば、ラジアル方向の振れの範疇を超えて当然エンドプレーに繋がりますが)のBOLEY LEINEN社に対して、コーンベアリングであっても加工精度良く製造を行い、しっかりと整備をすれば、精度の差は問題にはならないと、長い製品寿命を重視したG.BOLEY社との違いということになるかと思います。

話を当方のミリングアタッチメントに戻しますと、私も両社と同じように(と書きますと不遜ではありますが)検討と試行錯誤を繰り返し、その経過の中ではフラットメタルの一部にコーン的な要素を加えた物も作成してみました。これは精度の点でかなり良い結果につながったのですが、しかしメインテナンスが大変で、どなたにも安心して販売することは難しいとの結論に至り、最終的にはボールベアリング仕様とすることにしました。

しかしながら、元々スピンドルのサイズが細く、高精度が期待できるアンギュラータイプのボールベアリングはサイズ適合する物が一切なく、通常の深溝タイプのボールベアリングの使用を前提とするしかありませんでした。しかしこれは、JIS規格でいうところのゼロ級のボールベアリングしか販売されていないことが精度上のネックとなりました。
各ボール自体の真円度も褒められた物とは言えず、外輪と内輪間におけるボールのアガキも大き目です。

しかし後者の問題は、通常では販売されていない規格の物が偶然見つかり、限定的に仕入れをすることが出来たこともあり(現在ではその製品の使用が必須ではなくなっていますが)、それを使用してあとは組み立て時での工夫を加えて、その結果0級の深溝ボールベアリングではあり得ない精度出しに成功することが出来ました。
このミリングアタッチメントは特にヤフオクなどには出品しておりませんし、その予定もありませんが、販売前の回転精度向上のための作業としては、スピンドル自体の整備を精度アップしたフラットメタル軸受けの状態で行い、満足の出来る状態までまず仕上げ、その後にボールベアリング仕様にするという、言ってしまえばとても非効率なことを行っています。
それは、スピンドルの回転精度を上げる為に実に様々な加工を行いますので、そうしたことをボールベアリング仕様状態でいたしますと、いかに管理されているとはいえ、その時のボールのアガキが万が一にも精度に影響してしまうのをおそれてのことです。
 
そうした様々な工夫の結果として、コーンベアリングやフラットメタルベアリングに勝るとも劣らない精度を実現することが出来ました。しかも思いのほか高寿命であることからメインテナンス度も低く、例え長~い期間の使用後であってもボールベアリングユニットの交換で再生させることが出来るのも大きなメリットです。

ただしここで明確にさせていただきますが、当方のミリングアタッチメントがもしコーンベアリング仕様であったのなら、様々な要素を鑑みても、間違いなく私はそれをボールベアリング仕様に変更することはしておりませんでした。
私は、自分自身がコーンベアリングの専門家であると自負しておりますので、このミリングアタッチメントがもしコーンベアリング仕様であったのならば、その精度出しに何の不安も抱かなかったと思いますし、当然そのままで長寿命が期待できますので、何ら問題はないわけです。
加えて、それに係る費用と手間を考えますとあまりに非効率ですし、一般的な判断を元にいたしますと、この小型のスピンドルをモディファイすることの難しさにチャレンジする合理性はなかったと思います。
ただただ、製品寿命がある程度短いと分かっているフラットメタル軸受けの製品(LEINEN社では採用しておりましたが)を、どうしてもそのままで販売することが出来なかったことが、モディファイをするモチベーションにつながっただけなのです。
それは、私が当方のダイレクトドライブモーターユニットを装着したミリングアタッチメントの有用性を信じていて、数量的には限定的ではありますが、時計を扱う技術者の方々に歯切りをより身近に感じていただき、ムーヴメント作成に活用していただきたいとの強い思いがあったからにほかなりません。

いずれにせよ、その改良作業がもたらしたものは、私にとって大きな果実と言えるものとなりました。
これまで距離を置いてきたボールベアリング仕様の旋盤やアタッチメントが急激にファミリアな存在となってくれました。
少し時間を頂戴することになりますが、次は私がはまってしまったLEVIN製のマイクロドリリングアタッチメントに関して書かせていただくつもりです。
これに関しては以前にもブログでそのアウトラインを書かせていただきましたが、実際に整備を行い、実使用を通して受けた強い印象をお伝えしたいと思います。
このアンギュラーボールベアリング仕様のアタッチメントを使って、ただの趣味人のように、マイクロドリリングをしたい気持ちが止まりません。


 
2024年08月18日 16:10

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